東南面。焼杉板張り
メインの入口。開口は高さは2.6m以上、幅もドアを外せば2.5mほどへと拡幅しました。
電動フォークリフトで大桶を蔵外へ出し入れできるようにするためです(それまでは移動不可能でした)。
また味噌の天地返しなど大桶の作業効率を改善するため、基礎の立ち上がりを高くし、天井高を30センチほど上げました。
1階 蔵部分。吹抜の部分は元々床が張ってあったため、減築工事(面積減)となります。
階段より見る。元の階段はかなり急勾配でしたが、お客様が利用するため掛け替えを行い、ゆったりの寸法かつ中間に踊り場を設けました。
2階飲食スペース
2階飲食スペース
階段、奥に充填室
石井味噌 三年蔵 耐震改修+飲食店新装
*かわかみ建築設計室との共同設計
慶應4年創業、松本の市街地に蔵を構える老舗の味噌店です。
今回の工事は、名物の三年味噌を寝かせる蔵を改修し、物置となっている2階を飲食店へ用途変更するのが目的です。
『蔵』と呼んでいますが、いわゆるなまこ壁、丑梁、切妻屋根を想起する「土蔵」とは異なり、10間×4間とかなり大きなサイズで、寄棟屋根の「土蔵」と「倉」の中間のような建物でした。
この工事の目的は大きく以下のように定められました。
① 2階の空きスペース(物置)を飲食店に用途変更し、収益向上を目指す
② 蔵内を見学ルートとして一般公開し発信力を向上させる
③ 同時に蔵の耐震補強を行う
④ 隣接する二年蔵も合わせて法適合させる
また計画にあたっては、作業効率改善のため、特に以下が求められました。
① 1階味噌蔵の作業効率性についても検討され、蔵内に充填室を設けること
② それまで不可能であった大桶を搬出できるようにするため、電動フォークリフトが進入できる大開口を設けること
③ 大桶へでの作業(天地返しなど)を効率的に行うため1階の天井高を上げること
しかしこの工事には、特殊かつ困難な条件が待ち受けていました。
通常は設計段階で建物の劣化状況を入念に調査しますが、今回は土壁の状態を直接目視することができなかったのです。
土壁は、外部はトタン板、内部はベニヤ板で全面覆われていました。しかも5トン近くある大桶を搬出するフォークリフトも入れず経路も無いため、本体工事が始まるまで大桶に味噌が入ったまま(=ほこりを出せない)という条件が重なり、着工するまでは想定で進めるしかない、という状況下で設計作業を進めることになりました。
設計段階では、一部分のトタンやベニヤを剥がし、既存の土壁を確認した上で耐震要素(筋交いと同じように水平力を負担できる)と見なし「限界耐力計算」による構造計算も行いました。ところが着工してすべてのトタンとベニヤを剥がしたところ、あまりにも痛みが激しく、土壁の中の小舞や縄は土に還ってしまっており、壁が剥離して落ちていたり、1階の柱の根元はシロアリや腐朽菌で過半が無くなってしまっている状況でした。
そのため土壁を耐力にカウントすることは断念、計算方法を変更し、筋交い+火打+頬杖+制震ダンパーによる補強へ方針変更となりました。
工事にあたっては、劣化した土壁をすべて除去し、建物全体を90センチほどジャッキアップ。
痛んだ柱を下から抜き取り(通し柱は切断)、新しい柱を下から差し込んで、新たなコンクリート基礎と土台の上にジャッキダウンしました。
2階に飲食厨房やトイレも設けるため、設備配管も新規に引き回しています。
なお、この計画は『事業再構築補助金』の採択を受けて進められました。
石井味噌さま公式サイト